ウソ夫婦
突然、目覚めた。
見たことのないフレアスカートをはいた、自分の膝が見える。蛍光灯の白い明かり。手を動かそうとしたが、動かない。目を凝らしてよく見ると、結束バンドで両手首を縛られている。
翠は、顔を上げた。
「お目覚めね」
右上から声が聞こえてきた。見ると、知らない女性が翠を見下ろしている。
「乃木あすかさん」
女性は翠の本名を呼んだ。
「……久しぶりに、その名前を呼ばれました」
あすかはそう言って、澄ました顔をした女性を睨みつけた。
女性は口元に笑みを浮かべると、あすかの真向かいに座った。足を組んで、肘をつく。
「あなた、誰ですか?」
あすかは尋ねた。
「わからない?」
「わかりません」
「そう……」
年はおそらく四十前半ぐらいだろう。頬までの黒髪に、細くつり上がった目。アジア美人だ。
「毎朝、アパートを掃除してあげたのに」
そう言うと、にっこりと笑う。
「掃除?」
あすかは何がなんだかわからない。
「あなたたちが引っ越してきた時、アパートの大家は始末した。裏庭に埋めてあるわ」
「……管理人……さん?」
あすかは目を見開いた。
「うそでしょ?」
「本当」
女性は言った。