ウソ夫婦
「日本でFBIが動くと、意外と目立つものなの。FBIと組むとなると、警視庁は慌てて、ミスをする」
あすかは息を飲む。
「最初から、すべて見ていたわ。ずっとチャンスを伺ってたの。乃木あすかを手にいれる、そのチャンスを」
あすかは、こみ上げる恐ろしさを見せないように、歯を噛み締めた。
「でもあの男が周りをうろついていて、長くかかってしまった。こちらもリスクはなるべく低くしたい。捜査官を手にかけるなんてこと、できればしたくないのよ」
女が笑う。その笑みに、人を殺すことをなんとも思わない、そんな冷たさを感じて、あすかは背中をぞくっと震わせた。
「さあ、行きましょうか」
女は立ち上がった。
「ど、どこへ」
あすかは初めて、自分の周りを見回した。
なんてことのない、会議室のように見える。パイプ椅子に長机。女が「連れてって」と大きな声を出すと、扉が開いてスーツを着た二人の男性が入ってきた。
服の上からでもわかる、鍛えられた身体。小綺麗にしているが、冷酷さを隠せない。男たちは、あすかを乱暴に立ち上がらせた。
しかし、足を踏み出してすぐに、膝が折れる。男たちが両脇からあすかの身体を持ち上げた。
「まだ、薬が効いてるの。フライトの間、おとなしくしていて欲しいもの」
「フライト?」
部屋から出ると、大きなエンジンの音が聞こえて来た。
「そう、これからアメリカに戻るわ。乃木あすかをアメリカに連れ戻すのが、わたしの仕事」
女はそう言って、廊下を歩き、突き当りの扉を開けた。
オイルの匂いの混じる生暖かい風が、廊下を吹き抜ける。
男に抱えられ外にでると、眩しさで目がくらんだ。太陽に必死に目をならすと、徐々に視界が戻ってくる。
「あ…」
あすかは驚きの声を上げる。
目の前には、小型の旅客機が止まっていた。