ウソ夫婦
「い、いやっ」
あすかは逃げようと、必死に足をばたつかせる。
女は、あすかを冷たく一瞥すると、何も言わず飛行機へと向かった。
逃げられない。怖い。助けてっ。
暴れるあすかを男たちは抱え上げ、飛行機の中へと乗り込む。
お腹に響くようなエンジン音。二列しかない客席の右側に、あすかは乱暴に降ろされた。
「やだっ」
あすかは叫んだが、抵抗虚しく足を結束バンドで縛られた。
女があすかのシートベルトのバックルをとめ、ぎゅっと引っ張った。あすかの腹部が苦しいほどに圧迫される。
「安全のためにね」
女はにやりと笑った。
なんで、わたしが必要なの?
どうしてアメリカへ連れ戻されるの?
どうして、どうして、どうしてっ。
あすかは手足をばたつかせた。
エンジン音が大きくなる。
扉が閉められた。
女は、通路を挟んだあすかの隣に座る。
男たちは、後部座席のカーテンで仕切られた向こう側へと、入っていった。
「さあ、出発」
女が歌うように言った。