ウソ夫婦
けれど突然、エンジン音が小さくなる。パイロット席の扉が開いて、操縦士らしき男が出てきた。
女の顔が曇る。
操縦士が耳打ちすると、女はシートベルトを外して席を立った。
「ああ、うっとうしい」
そう言い捨てると、「ちょっときてっ」と後部座席の二人に怒鳴った。
扉が再び開き、三人は連れ立って外に出ていった。操縦士は自分の席へ戻っていく。
なにが起きたの? でも……今がチャンスかも。
あすかは縛られた手足のまま立ち上がろうとしたが、もちろんのことうまくいかない。
「ちくしょっ。このぅ」
必死に手のバンドをちぎろうとするが、血がにじむだけ。
バンドに夢中になっていると、横から「おい」と声をかけられた。
あすかは、はっと顔を上げる。それから声をあげそうになって、颯太に口を覆われた。
「静かに」
唇に指をあてて、颯太がにやりと笑う。
「んっー。んー!!」
あすかは驚きで目を見開いた。
「暴れんなって。今、紐を切ってやるから。口を離すから、叫ぶなよ」
颯太の大きな手が離れると、あすかは大きく深呼吸した。
きてくれた。
本当にきてくれた。
あすかは涙が出そうになった。
「逃げるぞ」
「うん」
颯太に手を引かれて、椅子から立ち上がる。ふらつくと、颯太があすかの腰を支えた。