ウソ夫婦
宙を舞って、コンクリートに叩きつけられた。
何も聞こえない。背中に熱風がぶち当たる。あすかはうずくまって、何かわからないものがたくさん降ってくるのを、見ていた。地面に、小さな火の塊が跳ねる。
あすかは、必死に振り向いた。
飛行機のあった場所から、真っ青な空に向かって、高い火柱が上がる。
もう一度、弾けるような爆発。
破片が飛び散る。
あすかの頬に、コンクリートの粒が当たった。
あすかは立ち上がった。炎の方へとゆっくりと走り出す。
何が起きてるの? 理解できない。
だって、あそこには、颯太がいるのよ。
「そうたーっ」
声の限り叫んだ。
「返事をしてーっ。返事をっ」
あすかは気が狂ったように、叫び続けた。
真夏の太陽が気にならないほど、高温で燃え上がる機体に、あすかは走り寄ろうとした。皮膚がチリチリと炙られて、流れ出る汗が瞬く間に蒸発していく。
「そうたーっ、そうたーっ」
喚き続ける。
「あの女を、連れ戻して!」
遠くから声が聞こえるやいなや、あすかの両腕が掴まれる。
「離してっ。いやっ、いやーっ」
炎の前で、あすかはわめき散らした。
「助けにいかなきゃ! あそこに颯太がいるのっ」