ウソ夫婦

宙を舞って、コンクリートに叩きつけられた。

何も聞こえない。背中に熱風がぶち当たる。あすかはうずくまって、何かわからないものがたくさん降ってくるのを、見ていた。地面に、小さな火の塊が跳ねる。

あすかは、必死に振り向いた。

飛行機のあった場所から、真っ青な空に向かって、高い火柱が上がる。

もう一度、弾けるような爆発。
破片が飛び散る。

あすかの頬に、コンクリートの粒が当たった。

あすかは立ち上がった。炎の方へとゆっくりと走り出す。

何が起きてるの? 理解できない。
だって、あそこには、颯太がいるのよ。

「そうたーっ」
声の限り叫んだ。

「返事をしてーっ。返事をっ」
あすかは気が狂ったように、叫び続けた。

真夏の太陽が気にならないほど、高温で燃え上がる機体に、あすかは走り寄ろうとした。皮膚がチリチリと炙られて、流れ出る汗が瞬く間に蒸発していく。

「そうたーっ、そうたーっ」
喚き続ける。

「あの女を、連れ戻して!」
遠くから声が聞こえるやいなや、あすかの両腕が掴まれる。

「離してっ。いやっ、いやーっ」
炎の前で、あすかはわめき散らした。

「助けにいかなきゃ! あそこに颯太がいるのっ」



< 126 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop