ウソ夫婦
眠れるわけではない。颯太と別れてしまってから、十分に夜、眠ることができなくなった。
疲れと不安と恐怖。
あすかは夢と現実の境界線で、行ったり来たりを繰り返す。何が本当で、何が幻なのか、わからないまま朝を迎える。
すぐ隣に、颯太がいるような気がした。
『追いかける、だから大丈夫』
そう耳元で囁く。
「うん、わかった」
あすかは走り出す。颯太がもう追いかけてこないと知りながら、それでも走り続ける。
大きな爆発音。熱風。
あすかは飛ばされて、コンクリートに叩きつけられる。
必死に手を伸ばした。
「颯太、颯太」
すると、あすかは誰かに手を握られる。
『返事を聞かせて』
見上げると、コバルトブルーの瞳と目が合った。
あすかの胸に、安堵が広がる。
「返事はもちろん……」
黄金色の髪の男性が笑う。
『だから』
颯太が言う。
『あすか。すべてを、終わらせるんだ』