ウソ夫婦

「いやっ、離して!」
あすかは必死に暴れた。

「終わったら、放してやる」
白衣のボタンを片手で外しはじめる。男の目は充血し、興奮で汗をかいている。

あすかは寒気で身震いした。

死ぬだけじゃなく、こんな屈辱的なことまで。
絶対にいや!
絶対に、
絶対にいやっ。

ボンッ。

小さく破裂するような音がした。あすかは驚きで目を見開く。

男の瞳から、命の色が消えた。ゆっくりとこちらに倒れこんでくる。

あすかは、叫び声をあげた。

「頭のない男って、最低」
あの女の声がした。

力の抜けた巨体が、あすかの上に崩れ落ちた。あすかは悲鳴を上げ続ける。床に落ちた男の後頭部から、真っ赤な血が流れていた。

「ほら、出て」
颯太を殺した女が、男の下敷きになっているあすかの腕を取り、引っ張り出した。

汚い血にまみれて、あすかはの白衣は真っ赤だ。

「明日まで、あなたは大事な人。大丈夫、何も思い出せなくても、男たちの好きにさせたりはしないわ」
真っ赤な唇に、冷酷な笑みが広がる。

「その前に、わたしが殺してあげる」
そう言って笑った。

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