ウソ夫婦
あすかの唇から笑みがこぼれる。
『いつか住んでみたいところはある?』
『東京』
『東京? 東京はすっごく土地が狭いのよ。家だって、小さなアパートぐらいしか、借りられない』
『いいな、それ。楽そうだ』
『一ヶ月ともたないと思うなあ』
颯太が笑う。
『お前が一緒なら、何年でも大丈夫だよ』
これ、颯太が言ったんだっけ? 違う……ううん、颯太だわ。颯太が言ったの。
それに彼は料理好きで。
彼の作るステーキは最高で、休みの日には必ずキッチンに立ってた。
『お前は待ってろって。料理は好きじゃないんだろ?』
『うん、嫌い』
『じゃあ、料理は俺が担当するから』
『でも、作ってあげたい気もする』
『じゃあ、一緒に暮らしだしたら、お前が作って』
『いいよ。でも、文句言わずに食べてね』
彼は笑って、黄金色の髪をかきあげる。それから、あすかの肩を抱き寄せた。
すごく好きで。
彼のことが、とても好きで。
すべてが終わったら、返事をしようと思ってた。
「ずっと一緒にいさせて」
そう言おうと思ってた。
今日、あなたに会いに行くわ。
ちゃんとやるべきことを終えてから。
だから、待っていて。