ウソ夫婦
「柳が裏切ったからだよ」
当然というように言う。
「柳はずっと、研究データの改ざんを手伝っていた。実際はそれほどではないけれど、効果があるようにデータを変えていたんだ。薬を売るためには、仕方がないことだ」
あすかは信じられない気持ちで、キャリーを見続ける。
「ある日、上がってくるデータ資料を読んでいたら、抗がん剤を生成する際に出る二次物質に、驚異的な麻薬効果があることに気づいた。抗がん剤自体は、大したものではない。けれどこの二次物質は違う。一般に配布したら、金になるとわかった。もちろん、幻覚がひどくて、認可がおりるものではないけれどね」
キャリーが白衣のポケットに手を入れる。
「柳に、いつも通り、データを改ざんするように言った。抗がん剤の認可が下りないように。下りなければ、その二次物質を闇ルートへ流すことができるから。でも、柳は『NO』と言ったんだよ。これまでの自分のやってきたことを棚にあげて、私を非難した」
キャリーの眼光がきつくなった。
「FBIが探りを入れているという噂もあった。このまま長々ともめていると、厄介なことになる。抗がん剤は完成しているし、そのレシピも保存している。わたしは、この抗がん剤に関して少しでも知っている者を抹殺して、このプロジェクト自体を隠そうと考えた」
一つため息をつく。
「けれど、実際抗がん剤レシピを見てみたら、生成するために必要な物質が一つ足りない。麻薬物質が発生するために必要な、大事な最後の物質が。柳が裏切り、データを隠したのだ」