ウソ夫婦
あの時の、悲鳴が聞こえる。
自分の悲鳴も聞こえる。
あすかは耳を押さえた。
「さあ、二人きり」
女が甘く囁く。あすかはよろめきながら、女から距離をとった。
広い研究室。壁際に冷蔵庫が並べられ、青い光を放っている。幅広の実験台の上には、もう何も載っていない。
「綺麗に片付けられてるわ。わたしがここをみた時、床は血の海だったけど」
女が歩くと、ヒールが床をコツコツと鳴らす。
「全部、思い出したんでしょ。さあ、最後の物質は何?」
「し……知らないわ」
あすかは、震える声で言った。女を必死に睨みつける。
「柳から聞いてないの?」
「聞いてない」
「そう……」
女は腕を組む。
「じゃあ、データのありかを知ってるわね」
あすかは、動揺を見せないよう、緊張する。
「そもそも薬を作るつもりのないあなたが、研究所に連れて行けと言うなんて、おかしいわ。データのありかがここだとしか考えられなもの」
女はタイトスカートをめくり上げ、内腿から拳銃を取り出し、あすかに向けた。
「さあ、今すぐいいなさい」
女が言う。
「今すぐ言うなら、苦しまずに死なせてあげる。一発、あなたの胸に、打ち込んであげる。でも……」
女があすかに歩み寄った。
「あなたが少しでも駄々をこねるようなら、楽になんか死なせてやらないから」