ウソ夫婦

データのありかを教えるわけにいかない。

あすかはじりじりと後ろへ下がりながら、女に負けじと心を奮い立たせた。

「データのありかは、わからない。柳主任からは、何も言われていないわ」
「嘘よ」
「……本当。第一、ここをしらみつぶしに探して、結局見つからなかったんでしょう?」
あすかはそういいながら、自身でも不安になる。

柳主任の意味を、わたしが取り違えていたら?
見当違いの場所にいるとしたら?

パアンッ。

激しい一撃が、あすかの頬に飛んだ。衝撃で吹っ飛び、作業台の上に背中をしたたかに打ち付ける。

「逃げ切れると思ってるの?」
女が凄みのある声で言った。

「朝まで、ゆっくり時間をかけて、めちゃくちゃにしてあげる。身体の中の血がそこらじゅうに飛び散って『早く殺して』ってお願いするくらい、悲惨な死に方をさせてあげる」
女はそこで、銃をしまう。

「わたしは本当は、素手で殺すのが一番好き。だって、命が消えるのを、手のひらで感じるもの」
女の細くきれいな指が、あすかの首に巻き付いた。

「さあ、全部言いなさい」

あすかは、恐怖を押さえ込み、女の手を激しくはねつけた。すきを見て、女の下をくぐり抜け、研究室の奥へと走る。

「いいわ。逃げても。楽しみが増えるだけ」
女は笑いを含んだ声で、怒鳴った。

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