ウソ夫婦
教室を三つ繋げたほどの広さの研究室。
かかとを踏んだスニーカーにイライラする。
思い出して。いや、もう、思い出しているはず。柳主任の部屋は、一番奥。
『このアカウントとパスワードで、FBIのセキュリティネットワークに入れる。データを手に入れたら、ここのファイルサーバーへアップするんだ』
そうだ。颯太はそう指示した。
部屋に駆け込み、鍵を閉める。そして……。
ああでも、どれだけ時間が稼げるのか。
目をあげて、目標の部屋を確認した。
とても無理。今にも、追いつかれちゃう。それに、あの部屋に入ったら、データがあそこだってバレちゃう。
あすかは滑り込むように、実験机の後ろに回りこんだ。
何か、戦えるものを見つけなくちゃ。あいつを殴るかして、時間を稼ぐのよ。
実験机の下の引き出しを、夢中で開けた。たくさんのビーカーに、フラスコ。あすかは、一つを手に取る。
けれど次の瞬間、あすかは机の下から、すごい力で引きずり出された。
「ふふふ。いい度胸。楽しいわ」
女の声がして、あすかは床に叩きつけられた。
手からフラスコがはじかれる。ガシャンとガラスの割れる音がした。