ウソ夫婦
机にぶち当たる弾の衝撃が、背中に伝わる。
今にも机を弾が貫通して、自分たちに当たるんじゃないか。
あすかは、両手を握りしめて、激しい恐怖に耐えた。震えそうになるのを、唇を噛み締めてこらえる。
ジェイは銃を取り出すと、弾をリロードする。それから、あすかの肩を左手で抱き寄せた。
「出口は、一つか?」
「うん」
「じゃあ、あいつらをどかさないとな」
弾が周りの床を削っていく、その小さな破片が、あすかの足に当たる。
ジェイが机の影から、素早く打ち返た。小さなうめき声が聞こえたが、すぐに弾の嵐がやってくる。
「大丈夫だ。なんとかする」
汗のにじむ額で、ジェイがあすかを安心させるように、笑みを見せた。
「お前はここにいろ。俺は、あいつらの横に回る」
あすかは、ほんの数メートル先の柳の部屋を見た。
『あとはまかせた』
柳主任の言葉が蘇る。
『ずっと、言われるがままに不正を行ってきた。僕は、命を救うための薬を研究してきたのに、どこで間違えたんだろうな』
力なくうなだれ、メガネの奥の瞳が潤む。
『乃木さん、データをFBIに渡してくれ。改ざんまえの正規のデータと、キャリー所長の不正指示の録音データがある。それをFBIに渡して、全部終わらせてくれ。それでこれまでのことが償えるわけじゃないが。これが僕の、最後の良心』
深く頭を下げた。
『乃木さん、よろしく頼む』