ウソ夫婦
「ジェイ。わたし、データを取ってくる」
あすかは言った。
柳の部屋から目をそらさず、まっすぐに見つめる。
「あすか、それは危険すぎる。この銃撃戦がいつ終わるかもわからない。すぐにでもここから出ないと」
銃撃戦の合間に、ジェイが言った。
「約束したの」
「でも……お前……」
「大丈夫、わたしならできる」
あすかは、ジェイを振り返る。「もう、全部終わりにしよう」
響く銃弾の音。振動。衝撃。
ジェイはあすかの瞳を見つめた。緑がかった瞳に心配が揺れて、それから心を決めたような強い光がともる。
「OK。取ってこい。俺が援護する」
「うん」
「チャンスは一瞬だ。俺が打ち始めて、向こうの体制が崩れる、その一瞬に走れ」
「わかった」
あすかはうなづくと、かかとを踏んでいたスニーカーをちゃんとはき、紐を縛った。
「気を付けて」
「お前も」
互いの視線がぶつかる。しばらくお互い見つめ、それから、強く抱きしめ合った。
「お前ならやれる」
「うん」
「元陸上部だろ」
「うん」
ジェイの腕に力がこもる。
「よし、行くんだ」
ジェイは、あすかを解放すると、すぐに臨戦体制に入った。