ウソ夫婦

でやっ!

早業が炸裂した。光のごとく素早く動く指先。

指輪は、見事にのぞみの小指にはめられていた。

「やーん、キレイ」
のぞみがうっとりと自分の小指を眺める。指でくるくると指輪を回した。

成功した? どう?

翠はカメラを振り向きたい気持ちを必死にこらえた。手を隠しながら、自分の席に座る。

「しばらく、はめてていいわよ」
「ほんと? ラッキー」
のぞみはしばらく指輪を触っていたが、ウキウキしながら仕事へと戻った。本の予約表を記入し始める。

どうだろう……。

翠はいつメールが送信されてくるか、気が気じゃない。無意識に、携帯がしまってある引き出しを見てしまう。

三十分経過……。
一時間経過……。
二時間経過……。

やった、こない。あの胸糞悪い監視メールがこない! 気づいてないんだ。

翠は心の中で喝采をあげた。

「ねえっ」
翠は前のめりになりながら、のぞみに話しかけた。

「ん?」
「ランチの時間、わたしのお弁当もらってくれない?」
「……なんで?」
のぞみはぽかんとした顔で、尋ねた。

「ちょっと用事を思い出して……外に出たいの」
「おかず何?」
「卵焼きとウィンナー」
「おっけー。交渉成立。卵焼き大好き」

のぞみは両手で大きくマルを作った。

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