ウソ夫婦
扉が静かに開く。
キャリーが息を飲み込むのが聞こえた。
FBIの捜査官たちが、エレベーターに向かって、銃を構えていた。
中央には、ジェイ。
冷たい瞳。
階段を走って降りてきたのか、肩で息をしている。硝煙で汚れた白いシャツが、汗に濡れているのが見えた。
「終わりだ、キャリー」
ジェイが言った。
銃を持った片腕を上げ、キャリーに照準を合わせる。
「いいのか、この女が死ぬぞ」
キャリーがあすかの頭にねじ込むように、銃身を押し付けてくる。
「あすか」
ジェイが、キャリーから視線を外さぬまま、呼びかけた。
「俺は、外さない。キャリーが引き金に力を入れる前に、打ち抜ける。だから、こっちへ飛び込め」
キャリーの腕が、あすかの身体を逃すまいと引き寄せる。
「何言ってやがるんだ」
あすかがちらりと見上げると、キャリーの瞳には明らかに焦りが浮かんでいる。
「殺すぞ! いいのか!?」
怒鳴りながら、エレベーター内で後退りした。
「あすか、大丈夫だ」
ジェイが言う。
「来い」
その言葉を聞くやいなや、あすかはキャリーの足を、思い切り蹴りつけた。