ウソ夫婦
「あすか」
ジェイが拳銃をしまうと、あすかの身体を抱きしめる。あすかもジェイの背中に手を回した。
「終わりだ」
「うん」
言葉が続かない。溢れる想いが身体を満たして、穏やかな幸福感に酔う。
「二人とも、お疲れ様」
声がしたので振り向くと、ジェニファーが立っていた。
「幸せいっぱいだっていうのはわかるけど、これから事情聴取」
ジェニファーが笑いながら言う。
「でもその前に、アスカは病院で検査してもらって。救急車が来てるから、行くわよ」
ジェニファーはそう言うと、あすかの手を取った。
「待って、ちょっと……」
あすかは途端に不安になった。
ジェイと離れたくない。
「後始末をしたら、行く。お前はちゃんと診てもらえ」
「でも……」
「二度と離れないって、言っただろう?」
あすかは、ジェイの確かなその表情を見て、安心する。
そう、この人は、必ず側にいてくれる。
「じゃあ、後で迎えにきて」
あすかはそう言うと、ジェイに笑いかける。
「わかった」
ジェイも笑顔を返すと、ジェニファーに「連れてってくれ」と頼んだ。
ビルを出ると、朝焼け。
なんども振り返り、ジェイの姿を確認する。ジェイは救急車が出発するまで、あすかから目を離さなかった。ビルの前に立ったジェイの姿が、どんどん小さくなっていく。
あすかは小さく手を振った。
「まったく、妬けちゃうわね」
ジェニファーが肩をすくめて、首を振った。