ウソ夫婦
「ジェイ」
秋物のカーキ色のコートにデニム。あすかの顔を見て、笑顔を見せる。
「待ったか?」
「ううん」
本当はちょっと待ったけど、あすかは首を振った。
「体調は?」
「大丈夫」
「そうか」
どこかぎこちない。
あすかはさらに一層深く、マフラーを引っ張りあげた。
「ご両親は?」
「明後日には帰国するの」
冷たい風が、落ち葉を舞い上げる。
「お前は?」
ジェイが尋ねた。
「両親は日本に連れて帰りたいって言ってる」
「……そうだろうな」
ジェイが小さく言った。
「でも私は」
あすかの胸が、ドキドキで破裂しそうになる。
言わなくちゃ。
約束したんだから。
「私は……あなたと、一緒に」
顔が火照る。今、真っ赤になっているだろう。それも恥ずかしさに拍車をかけた。
「いっ、いっ、一緒にっ」
声が裏返る。
ジェイが不思議そうな顔をして、あすかの顔を覗き込んだ。
「何言ってるんだ?」