ウソ夫婦
「い、意地悪」
あすかはジェイを睨みつけた。
「どこがだよ。終わったら返事するって、お前が言ったんだぞ。俺は、随分待った」
あすかはマフラーの下で、口を尖らせた。
もう……無理っ。
拗ねはじめたあすかを見て、ジェイが軽く笑う。
そしてベンチから降り、片膝をついた。
「あすか」
ポケットから、グレーのケースを取り出し、開けた。
「ジェイ」
あすかはびっくりして、目を見開く。中には、小さなダイヤモンドがついた、指輪が入っていた。
「俺と、結婚するか?」
あすかの瞳が潤む。
意地悪な人だけど、すごく好き。
「うん」
あすかはうなづき、目をこすった。
ジェイは「予想通り」と言って、にやりと笑う。それから指輪をあすかの薬指にはめた。
「これ、GPS付きだから」
「……うそでしょ」
「うそ」
ジェイが笑う。
「もう……」
あすかは、泣きながら笑った。
ジェイの腕が伸びて、あすかの涙を指で拭う。それから、あすかの顔を半分隠しているマフラーを、指で押し下げた。
「今度は、ホントに」
ジェイの指があすかの唇に触れ、それから顔が近づいた。
「夫婦になろうな」
そして、優しくキスをした。
【完】