ウソ夫婦

「い、意地悪」
あすかはジェイを睨みつけた。

「どこがだよ。終わったら返事するって、お前が言ったんだぞ。俺は、随分待った」

あすかはマフラーの下で、口を尖らせた。

もう……無理っ。

拗ねはじめたあすかを見て、ジェイが軽く笑う。
そしてベンチから降り、片膝をついた。

「あすか」
ポケットから、グレーのケースを取り出し、開けた。

「ジェイ」
あすかはびっくりして、目を見開く。中には、小さなダイヤモンドがついた、指輪が入っていた。

「俺と、結婚するか?」

あすかの瞳が潤む。

意地悪な人だけど、すごく好き。

「うん」
あすかはうなづき、目をこすった。

ジェイは「予想通り」と言って、にやりと笑う。それから指輪をあすかの薬指にはめた。

「これ、GPS付きだから」
「……うそでしょ」
「うそ」

ジェイが笑う。

「もう……」
あすかは、泣きながら笑った。

ジェイの腕が伸びて、あすかの涙を指で拭う。それから、あすかの顔を半分隠しているマフラーを、指で押し下げた。

「今度は、ホントに」

ジェイの指があすかの唇に触れ、それから顔が近づいた。

「夫婦になろうな」

そして、優しくキスをした。


【完】
< 169 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop