ウソ夫婦
モニタに移ったジェイの顔が驚いている。
「……誘ってんのか?」
「え?」
あすかが慌てて自分の姿をチェックすると、肩がはだけ胸元が見えている。あすかは毛布を引っ張り上げて「ちがうっ」と大きな声をあげた。
「お風呂あがりなの」
「……へえ」
ジェイはニヤリと笑うと「明後日には、好きなようにしてやるから」と言う。
「し、しなくていいから」
あすかは思わず否定した。
本当はしてほしいけど、してほしくない。複雑な乙女心。
ジェイはゆったりとした紺色のニットを着て、黄金色の髪をかきあげる。
ちらっと見えた手首が意外に細くて、あすかはドキドキした。しばらく会ってない。全部が愛おしくて、今すぐにでもあの手でぎゅーっとしてほしい。
「旅行、どこへ行こうか」
ジェイが言った。
「新婚旅行?」
「他に何があるんだよ。まだ先の話になるだろうけど、旅行いくだろ?」
「うん」
ジェイがそんなことを言うなんて、思ってもみなかった。これまで一言も言わなかったし、あすかも半ば諦めていたのだ。
そもそも結婚式だってアメリカと日本の二箇所でやるし、旅行だなんて大変なのに……。
「行きたいところあるか?」
「……えっと……」
そう言われると、とたんに夢が広がる。
イタリアもいいし、北欧も素敵。カナダでオーロラを見るっていうのは、どうかなあ。