ウソ夫婦

「実は……山崎さんをモデルに、イメージ画を描いているんです」
「……は?」

いま、なんと?

「山崎さんの姿が……目に焼き付いて、どうしても残したくなってしまったんです」
まるで愛の告白のように、情熱を込めて森は言った。

「そ、それは……」

なんだか、気持ち悪いです。

とは言えなくて、翠は口ごもる。でも、気持ち悪いよね、いつのまにか描かれてるとか。

森が一歩翠に近寄る。翠は反射的に後ずさった。

「夏休み、モデルになっていただけないでしょうか」
「ええ?」
翠は嫌悪感を顔に出さないように、なんとか笑顔を作る。でも心の中では、いますぐにでも逃げ出したい気分だ。

「山崎さんが、川辺に座り、生まれたままの姿で水と戯れる。なんて……美しいんだ」

生まれたままの姿……裸ってこと……ですね……。

ゾワっと背筋を悪寒が走り抜ける。もはや、翠は笑顔を作ることもできなくなっていた。

気持ち悪すぎる。

「遠慮させてください」
翠はくるりと背を向けると、一目散に坂をおりだした。

「待って、山崎さん」
後ろから森の声が追いかける。

溶けそうなほど熱いコンクリートを蹴って、半ば走るように歩く。

「やましい気持ちじゃあ、ありません。純粋に、芸術的な視点で、あなたのなめらかな肌を描きたいんです!」

た、た、たすけて〜。

翠は涙目になった。

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