ウソ夫婦
「じゃあ、どうしてこのカフェに入ったの?」
口をもぐもぐ動かしながら、翠は尋ねた。
「ここに来る予定だったんだろ?」
「……どうして知って?」
翠ははっと、胸に手を当てて、青ざめる。
心を読む装置とか、手術でいつのまにか埋め込まれたとか!? FBI ならありえる〜っ。
「この前を通るとき、いつもよだれが垂れてる」
颯太が言った。
「は? うそっ」
翠は思わず口を指で拭った。
颯太は翠の慌てた様子を見て、軽く笑った。
「いつも、アパートと図書館の往復で、そろそろ飽きてきたんだろ?」
「……はあ」
「週末は、息抜きにどこかへ行くか」
「行くって……一緒……ですよね」
「……当たり前だろ。それが俺の仕事」
颯太はそう言って、再びアイスコーヒーを口にする。
翠は気付かれぬよう、そっとため息をついた。
一緒にでかけたいわけじゃない。
離れて、過ごしたいのに……てんでわかってないな、この人。