ウソ夫婦
「どこって別に……」
翠は蛇口をひねって、水を止めた。
「息抜きに、どこか連れてってやるから」
あくまで高いところからの、発言ですね……でも、コレ、チャンスかも。
「じゃあ……遊園地」
翠はそう答えた。
「この、くそ暑い日にか?」
「どこがいいって聞かれたので」
翠は済ました顔で言う。
颯太は大げさにため息をつく。それから「早く支度しろよ」と言って立ち上がり、翠の部屋の隣にある自分の部屋へと入って行った。
翠は心で拳を作る。
遊園地みたいに混雑したところなら、まぎれて逃げられるかもしれない。結局ものの一時間とか、その程度かもしれないけれど、でもちょっとの自由は得られる。
翠は今、自由を死ぬほど欲していたのだ。