ウソ夫婦

窮屈な軽自動車を運転し、大きな球場に併設されている遊園地へと来た。球場でコンサートでもあるのか、アイドルのうちわを持った女の子たちが、道路を波のように動いている。

息をするのも苦しい炎天下へと出ると、翠は真っ白な鐔広の帽子を深くかぶった。颯太はTシャツにデニムという軽装。サングラスをかけている。

「帽子持ってないの?」
颯太の黒髪にジリジリと太陽が照りつけるのをみて、翠は思わず心配になった。熱中症にでもなったらどうすんだ。

「持ってない」
「頭で目玉焼きが焼けちゃう」
「焼くわけないだろ」

颯太は冷たく翠を一瞥すると、歩き出した。

日差しに輝く背中をみながら、翠は軽くため息をついた。ほんと、ノリが悪い。

遊園地は平日にもかかわらず混んでいた。考えてみれば当たり前だ。世の中の学生たちは、そろそろ夏休みに入る。ファミリー向けなので、小さな子供を連れている母親も多かった。

三歩あるくと、汗が一リットル出る。颯太を見上げると、ほんとうに嫌そうな顔をしていた。

よし、この暑さで集中力も切れるってもんよ。

「まずは、ジェットコースター」
翠は言った。

「この暑さの中、並ぶのか?」
「もちろんです」

ビルの谷間を縫うように続く、コースターの線路。真夏のコンクリートに立つと、袖があるのに日差しが腕に突き刺さる。

「……コレが好きなのか?」
颯太は目を細めて、思いの外心細そうに線路を見上げる。

「気持ちいですよ。大声あげると最高」
そう言う側から、猛スピードのコースターが悲鳴を連れて駆け抜けていった。

< 28 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop