ウソ夫婦
寒い。それに、手首と足首がヒリヒリする。
翠は重い瞼を、必死に開けた。高い天井。屋根の形に鉄筋が組まれている。右側から明るい日差しを感じて、翠はそちらを向こうとしたが、身体が思うように動かない。そこでやっと、焦り出した。
どこ? ここ。そういえば、遊園地で……森先生に会って、それで……なんかされたんだ!
翠はパニックになって、身体をバタバタ動かそうとしたが、お尻の下がガタガタいうだけで、ビクともしない。翠はすぐにでも遠くへ行きそうな意識をなんとか呼び戻して、自分の状況を把握しようとした。
広い倉庫の中の真ん中で、椅子の上に座らされている。身体が動かないのは……やばい、後ろ手に紐で縛られ、足首も椅子の足にくくりつけられていいるから。
そして、真夏なのに寒いと感じるのは……冷房の効きすぎだけじゃない。
視線を下ろすと、自分の白い下着と胸の谷間が見えた。
翠はさらにひどい悪寒にみまわれる。
私……脱がされてる!
翠は狂ったように暴れたが、薬の効き目がまだあるのか、思った以上に力が入らない。
まずい。真剣にまずい。このまま絵のモデルになったら、素直に解放なんてことあるだろうか? いや、そんなわけない。ぜったい、オモチャにされるっ。
翠がなんとかしようと暴れていると、後ろから「起きました?」と声がかかった。
翠の身体が恐怖でビクッと震えた。森の気配が、背後に近づくのがわかる。人から発せられる熱気が、どうしようもなく気持ちが悪い。
た、た、助けて。