ウソ夫婦

図書館に着くと、のぞみがガタンッと大きな音を立てて、椅子から立ち上がった。

「山崎さんっ、ニュースッ」
「はい?」
翠はのぞみの勢いに驚きながら、カウンター裏の自分の席へと向かった。

「森先生が、捕まっちゃった!」
のぞみはふっくらしたほっぺを自分の手で挟んで、まるでムンクの叫びのようなポーズをした。

「……森先生が?」
翠は知らないふりをするのが難しい。必死に驚いた顔を作る。

「そうなの! わいせつ行為ですって。あーりーえーなーい」
のぞみが叫ぶと、奥の席から「うるさいっ」という笹橋の声が飛んできた。

「す、すいません」
のぞみが慌てて自分の口を押さえる。それでも興奮しすぎて、指の間からのぞみの声が漏れてきそうだ。

「あの森先生だよ? 信じらんないっ」
のぞみは油断すると大きくなりそうな声を必死に抑えて、小声で翠に話しかけた。

「わいせつって、何したんだろ。やばい、気持ち悪すぎるよぉ」
のぞみは自分の体を抱いて、震えるポーズをとった。

パンイチで、踊ってました。

翠は、頭に蘇ったおぞましい記憶を振り払うように、首を激しく降った。

「よかった、声かけられなくて」
のぞみは大きく安堵のため息をついた。

「暑いからかな。ココが緩んじゃったんだ」
のぞみは頭をコツコツ叩いて、再び身を震わせた。

「山崎さん、ちょっと気に入られてたよね。よかったねー、被害に合わなくて」
「ははは」

いやいや、大きな被害にあいましたけど。でも、裸で縛られたなんて、死んでも言えない。

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