ウソ夫婦
しばらく、無音戦争状態が続いた。
翠は黙々と夕飯の支度をする。牛肉のグリルとマッシュポテト。簡単なものだ。いや、翠は簡単なものしか作れない。特に文句が出たこともないし、颯太は「うまい」も「まずい」もなく食べるので、作りがいがない。
「いやいや、凝った食事なんか、あいつのためには作らないし」
ポテトをギューギュー潰しながら、思わず独り言をいった。
颯太はソファに座って、支度をする翠を見続ける。本を読むときの細縁のメガネをかけて、時たま身体の向きを変えながら、翠を見ている。Tシャツにジャージという家着に着替えて、完全にくつろぎモードだ。
「ちょっとは手伝え」
翠はそう呟いた。
ピンポーン。
そこに、チャイムがなった。壁掛けの時計を見ると、七時すぎ。
「はーい」
翠はコンロの火を止めて、玄関に出ようとする。それを颯太が腕で制して、ドアスコープから外を確認した。
「いいぞ」
颯太は翠に耳元でそう言うと、一歩下がる。
翠はドアを開けた。
「こんばんわーっ」
お隣の奥さんが立っていた。