ウソ夫婦
「全然、気にしないでくださいっ」
奥さんは、すでにサンダルを脱ぎ始めている。
「わー、うれしい。本当に寂しくて、泣きたかったんですよー」
飛び跳ねるように、部屋と入っていく。
翠が思わず颯太の顔を伺うと、颯太はなぜか少し嬉しそうにしている。
少々、腹が立った。
作りかけの夕飯を、えいやっと仕上げる間、颯太とお隣さんは楽しそうに話している。
「お仕事は何してるんですか?」
「普通の会社員ですよ」
「えー、見えなーい」
気にしないように、と思っても、つい確認してしまう。
あれ? なんだか徐々に、颯太の方へ近寄ってる?
翠は疑惑を押し込めて、首を振る。
だって、お隣新婚さんだよ。颯太に色目だなんて……んな、バカな。
大皿に、ポテトとお肉を山盛りにする。こんなとき、オシャレに盛り付けできたらと思うけれど、なかなかうまくいかない。
「どうぞ」
無意識にドンッと大きな音を立ててお皿を置くと、奥さんは「すごい」と声を上げた。
「大胆な盛り付けですね〜」
「……ありがとう」
褒められてるのか、貶されてるのかわからず、翠は小さい声になった。颯太を見ると、よそ行きの顔をしていて、なかなかにもって、イライラする。
「さ、いただいましょうか」
奥さんが言った。