ウソ夫婦
リビングの方から、ごにょごにょと話し声が聞こえて来る。旦那さんと二人、玄関で気まずい気持ちで待った。
「おい、愛子」
しびれをきらした旦那さんが、再度大声で呼びかけた。
「……まって、健二。いま行く」
少し甘えたような声が聞こえてきて、愛子が廊下に出てきた。フローリングをパタパタと小走りに駆けてくると、ひょいっと健二の腕に腕を絡める。
「ずいぶん早く帰ってこれたんだね〜」
「あいちゃんが、寂しがってるかと思ってさ」
「あたり〜。寂しかったよぉ」
先ほどまで颯太に擦り寄っていたとは思えないほど、健二にべったりとくっついている。
颯太が玄関に出てくると、健二は再び「ご迷惑をおかけしました」と頭をさげた。
「いえいえ。お隣ですから、いつでもどうぞ。今度は旦那さんもご一緒に」
颯太がパーフェクトスマイルで言うと、健二はさらに恐縮したようにペコペコと頭をさげた。
「では、失礼します」
「颯太さん、奥さん、おやすみなさーい」
そして、扉が静かにしまった。