ウソ夫婦
颯太の顔が見る間に紅潮してくる。口をへの字にして、軽く震えて始め……吹き出した。
それから身体を折り曲げて、いつも冷静な男には見えないほど、爆笑する。
「お前……ほんと……馬鹿……」
うめくような声で、颯太が言う。
「な、なんだとーっ」
翠は自分がどうやら決定的な恥をさらしたことに気付き始めた。焦って変な汗をかく。
「あは……あははは……腹いて」
翠は顔を真っ赤にして黙り込んだ。何を言っても、もう、墓穴を掘るしかできないだろう。
「才女のくせに、ほんと……考えることが……幼稚園児で……」
「……幼稚園児じゃないもん」
「あははは、わかってるけどさ」
颯太がひょいと顔をあげた。
翠の胸に雷が落ちる。
見たことのない、笑顔なのに……。
翠は自分の胸のあたりを、ぎゅっとつかむ。
目尻に小さな笑い皺。まるで少年のような奔放さとあどけなさ。それと、翠に向ける優しい眼差し。
夢で見た人と……似てる。
『笑いかけてくれたらいいのに』
自分の声が聞こえた気がした。
翠は慌てて耳を触る。
「ちょっと考えてみろよ、どうして下が黒くなかったのか」
颯太はそういうと、こみ上げる笑いをコントロールするように、深く息をする。
それから「かわいいな」と言って、翠の前髪をくしゃくしゃっと、その大きな手で撫でたのだった。