ウソ夫婦
「お料理、されるんですか?」
翠は、貸し出しの手続きをしながら言った。
「いや、妻に頼まれたんです。僕は料理には興味がなくて」
宗谷が恥ずかしそうに頭を掻く。
「奥様、お料理上手ですものね」
胸の中がもやっとするのを押し込めながら、翠は会話を続けた。「美味しかったですもの」
残りは捨てちゃったけれど。ゴメンナサイ。
そこで、笑顔だった宗谷の顔が曇る。そして「すみませんでした」と口にした。
「どうしたんですか?」
翠はびっくりして、思わず宗谷の腕を触る。
「妻、ご迷惑だったでしょう?」
がっくりと肩を落として言った。
「そんな……別に……」
そう答えながらも、じりじりと颯太の方へと身を寄せて言った愛子を思い出して、むかっときている。
確かに、大迷惑。
「愛子は、いい男がいるとテンションが上がるタイプで」
「はあ……」
「旦那さん、とにかくかっこいいですよね。男の俺でも、ちょっと憧れるような」
「そう……ですか?」
翠は曖昧に笑いながら言った。
「いや、素敵な旦那さんです。だから……愛子は気になってるようなんですよね……」
「……そうですか」
っていうか、それでいいの、ご主人? 奥さんが、隣の旦那に色目使ってるってことだよ?
翠は少々あっけにとられて、宗谷の話をただうなづいて聞き続けた。