ウソ夫婦

「いらっしゃーい」
パタパタパタと軽い足音をさせて、奥から愛子が出てきた。

翠は目を疑った。

シースルーの膝上ワンピースの下は、真っ白なレースの下着。くびれも、おへそも、ばっちり見える。

「愛ちゃん、連れてきたよ」
宗谷がカワイイ声で答えると、翠は背中がゾクっとした。

「入って、入って」
愛子は颯太の手を引いて、部屋に上がらせる。

翠が玄関に立ち尽くしていると、宗谷が後ろから「奥さんも入って入って」と背中を押された。

さ、さわんないでっ。

悲鳴に近い声が出そうになるのを、ぐっとこらえた。颯太はもうリビングへと入っている。翠はしぶしぶサンダルを脱いだ。

部屋の作りは、翠たちのとまったく一緒だ。廊下の扉を開けると、目の前に小さなキッチン。右手に狭いリビング。リビングに接して二つの部屋がある。

リビングには、甘じょっぱい匂いが充満していた。

「今、豚の角煮を作ってるんです。颯太さんは、お好きですか?」
馴れ馴れしく、颯太の腕に手を添えた。

「好きです」
颯太に愛子の格好は見えてるのだろうか。完全ポーカーフェースで、事もなげに答える。

ちょっとは、狼狽しようよ。

翠はもどかしい気持ちで、歯ぎしりしたくなった。

すると後ろから「捕獲っ」という声。反射的に振り向こうとしたが、腕を後ろ手にぎゅっと何かに縛られて、動けなくなった。

「お?」
翠は間抜けな声を出す。

「愛ちゃん、こっちはオッケーだよ!」
宗谷の声が肩の後ろから聞こえた。

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