ウソ夫婦

「けんちゃん、ナイス」
愛子は言うと、指でオッケーマークを作った。

「な、何これ!」
翠は縛られた腕をもぞもぞさせて、抗議の声を上げる。

「颯太さん」
愛子は翠を無視して、颯太に向き直る。白いワイシャツを着た颯太の胸に、そっと手を置いた。

「新しいこと、したくありません?」

颯太の唇に笑みが浮かぶ。
「新しいことって?」
そう言った。

ありえない。
なんで、こっちを助けにこんのだ!?

翠は呆然となって、颯太と愛子を見つめる。

「奥さんは、こっちこっち」
宗谷は翠の腕を掴んで、小さめのソファに座らせる。宗谷も隣にドシンと座り込んだ。翠が逃げないように、ぐっと手首に巻かれた紐を握っている。宗谷の鍛えられた腕に、筋肉が盛り上がった。

「ちょっ、ねえ、何やってんの?」
翠は隣の宗谷に必死に話しかける。

宗谷はニコッと笑って「大丈夫、楽しくなってきますから」と答えた。

「楽しくなんか、ならないしっ。っていうか、旦那さん、奥さんほっといていいんですか? ちょっかい出してきたら断れって、ついさっきまで言ってたじゃない」

「いやあ、愛ちゃんにねだられると、いやって言えなくて」
宗谷は照れたように頭を掻く。

翠はあまりのことに、脱力感に見舞われた。

なんてヘタレな、夫なんだ。

「私、最初に見たときから、分かってたの。颯太さんは、新しいことを受け入れられる人だって」
愛子はシースルーを脱ぎ捨てた。
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