ウソ夫婦
「何いってるんだよ。これからじゃないか」
颯太が薄く笑う。
翠は床に転がったまま、颯太を見上げた。
颯太は、ポケットからスマホを取り出して、愛子に見せる。
「俺は、女がこの格好をしてないと、ヤレないんだ」
愛子が驚いてスマホを凝視する。
「今から家に帰って衣装とかつらをとってくるから着て」
颯太は甘えるように愛子に言った。
「えっと……それは……」
愛子が動揺し始めた。
「ほら」
颯太は愛子の手をとって、自分の下半身を触らせる。
「このまんまじゃ、できないだろ?」
愛子はバッと手を引いて、怪物を見るような顔で颯太を凝視した。
「台詞も決まってるから、覚えてくれよ」
「はあ? 何それ」
愛子がドン引きしている。
「……気持ち悪い。なんなの?」
「翠は俺のリクエスト、全部聞いてくれるよ。リクエスト以上にしてくれるから、俺は翠から離れられないんだ」
颯太がにっと笑った。
「私には……無理。っていうか、全女性の99%は無理っていうわよ」
愛子は汚いものでも見るように、颯太からじりじりと距離を取り出した。
「ほんと、イケメンなのに、すっごい残念な男」
愛子は吐き捨てるように言うと、転がってる翠のところへ来て、紐と猿ぐつわをとく。
「帰ってよ、気持ち悪い」
愛子はそう言いながら、未だ呻いている宗谷へと寄り添った。
「気が変わったら、連絡して」
颯太はそう言うと、翠に手を差し伸べる。翠は何が進んでいるのかさっぱり理解できない。
「気なんか変わるか、変態夫婦」
愛子は悪態をついた。