ウソ夫婦
「今日から一週間、俺は休暇を取るから」
颯太はそう言うと、小型のスーツケースを手に持った。
「きゅ、休暇?」
翠はびっくりして、声が裏返った。
「俺のいない間は、このジェニファーが警護する」
「まかせて」
ジェニファーが明るく言った。
「どこ行くの?」
翠が聞くと「お前には関係ないだろ」と冷たく返された。
「彼女の一日のスケジュールは、伝えた通りだから」
「オッケー。今日はこれから図書館に送ればいいのね?」
「そう」
翠がそこにいないように、二人は素早く打ち合わせをする。翠はポカンとしながら、その二人を見るしかない。
「じゃあ、ジェニファーのこと、よく聞くんだぞ」
玄関に向かいながら、颯太が言った。
子供じゃないのに、何その言い草。
「じゃあ、よろしく」
颯太は言うと、ジェニファーを軽く抱きしめる。
ジェニファーも軽くハグを返すと、颯太の頬に唇をつけた。
「いってらっしゃい」
ジェニファーはそう言って、身体を離す。そして手を振った。
玄関を開けると、日本の夏の空気。眩しい太陽。颯太のグレーの背中を目で追うと、まもなくパタンと扉が閉まり、薄暗さが玄関に戻る。
「さ、じゃあ、ブレックファーストにしましょうか」
ジェニファーは明るく提案した。