ウソ夫婦
いっとき、人が少なくなるお昼時。
今日は、ランチ、持ってこなかったなあ。
翠はぼんやりと考えた。
颯太が突然いなくなった。いつもならちょくちょく鳴るであろうメールの着信音も、今日はまったくない。すべてがかみ合わないような、そんな違和感を感じる。
「ごはん、買ってきてもいい?」
翠はのぞみに尋ねた。
「あれ? 珍しい。お弁当じゃないの?」
「うん……」
「今日は颯太さんが送ってきたんじゃないし……さては」
のぞみが眉をあげる。「喧嘩しちゃった?」
翠は慌てて首を振る。
「違うの、今日は主人が……出張でいないから」
「そっか」
のぞみは「なんだ」という顔をして、頬杖をついた。
「あんなに献身的で、溺愛してくれるご主人がいるって、山崎さん本当に幸せ者」
のぞみは寂しそうにため息をついた。
翠は曖昧に笑って「行ってもいい?」と確認する。
「もちろんだよ」
のぞみは手をひらひらとさせた。
翠は財布を手に取ると、裏口から図書館を出る。
いつもならここで、「どこ行くんだ?」とか「一緒に行く」とか、必ずメールが入るのに。
今日は、なんの連絡もなし。周りを見回しても、いつもの軽自動車が見当たらない。
「ジェニファー、今どこにいるのかしら……仕事、してんの?」
不思議なほど寂しく感じている自分にびっくりしながら、翠はコンビニへと歩き出した。