ウソ夫婦
寝た。ねた。ネタ。
寝た!?
翠は衝撃で黙り込んだ。
「ミドリ? おーい、大丈夫」
「……だ、大丈夫です」
「ミドリ、心配しないで。今じゃないわよ。ずっと昔」
「はあ」
「それに、付き合ってたわけじゃないのよ」
「はあ」
「お互いにセックスを楽しんだだけ。アクティビティよ」
「はあ」
今朝、玄関先で二人がハグをしていたことを思い出した。確かにすごく親しげで、ただの同僚とは見えなかった。
「ミドリは、セックスを楽しんでないの?」
「たっ、たっ、楽しんでませんっ」
翠の顔が真っ赤になる。
すでに翠の頭の中には、二人が絡み合うところしか出てこない。
「かわいそうに」
ジェニファーが同情の眼差しを送る。
「ソウタに教えてもらいなさい」
んなこと、教えてもらうわけないだろーっ。
翠は消えない脳内映像を、なんとか消そうとビールを煽った。
「私ももう一度したいなと思うんだけど、もうそういう遊びはやめたんだって。残念だわ」
ジェニファーが本当にがっかりした様子で言う。
「そ、そうなんだ」
翠は無意識に安堵で力が抜ける。
「まあ、仕方ないわ。大切な人ができたっていうからね」