ウソ夫婦
「さてと」
翌朝、アルコールなんか一切残っていないだろう、すっきりした笑顔で、ジェニファーが切り出した。
「ヒロトと会ってもらうわ」
朝のコーヒ−を飲んでいた翠は、その突拍子もない言葉に「な、なんで?」と反射的に答えてしまった。
「偶然だなんて、信じられない。地球は広いのよ。狭い島国の日本だっていっても、たまたま出会うなんてこと信じられる訳ないじゃない」
すっきりとしたシャツに、タイトなスカートという、できる女局員のような出で立ちのジェニファーが、腕を組んでいった。
「偶然ってあると思うけど」
小さな翠の反論は、ジェニファーの耳には届かなかった。
「何かが動き出してるのかもしれない。ミドリはヒロトからそれを聞き出してもらうわ」
「そ、そんなスパイみたいなこと、できないですよ」
「できるできる」
軽くジェニファーがうなずく。
無責任にそんなこと言って。
「今日のランチも、あのコンビニに行って。ヒロトを調べたら、ほぼ毎日あのコンビニでランチの買い物をしてる」
「……そうですか」
「今度はミドリから話しかけて。それから『食事でも』っていうのよ」
「えー」
翠は眉をしかめた。
そんなこと言えない。勝手に消えた自分が誘うなんて、ずうずうしいにもほどがあるし。
それに断られたら?
翠はそれが怖かった。