ウソ夫婦

「大丈夫だって。元カノに声をかけられて嫌な男はいないって」
ジェニファーが自信マンマンに言った。

「……それで、何をきけば?」
翠は尋ねた。

「向こうがどう出てくるかよね」
ジェニファーが言う。

「ミドリは秘密を知る最後の一人。ヒロトが内通者だとしたら、その秘密を知ろうとするはず。失われた記憶を聞こうとしたり、それとなく昔の仕事のことに探りを入れてきたら、疑いありだわ」

「疑いありってなったら、どうなるんですか?」
「拘束するに決まってるでしょ」
ジェニファーがにやりと笑う。

「吐かせるわ、全部」

翠の背筋に冷や汗が流れる。

超怖いんですけど。

「指輪、外して」
ジェニファーが手を差し出した。

「あ……」
翠は左手の薬指にはまる結婚指輪を見た。

「既婚者だとバレると、誘えるものもの誘えなくなるから」
「……でも大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。指輪がなくても、私がちゃんと見ておくから」

颯太は『指輪を外せと』と言うかしら。

指輪を右手の人差し指で触りながら、なんとなく思う。

『絶対に外すな』って、言うに決まってる。

『夫がいるって、言えばいいだろ』
そう言うに決まってる。

こんな風に、捜査のためとはいえ、元カレを誘えなんて、言うかしら。

言わない。
でも……あの人には、本当の妻がいる。

翠は指輪を外し、ジェニファーに手渡した。
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