ウソ夫婦

この間とほぼ同じ時間。翠は言われた通り、コンビニに向かっていた。

うまく誘えるんだろうか。そもそも疑うようなことをして、申し訳ないような気がする。大翔が内通者だなんてこと、それこそ信じられない。

相変わらずジェニファーの姿はない。指輪も外してしまった今、どうやって翠を監視しているのだろうか。

颯太の姿がないことが、想像以上に心細さをかきたてた。

今、颯太は大切な人と時間を過ごしている。
自分はこの世界がすべてなのに、あの人には自分自身の世界がある。

その事実が、翠の頭を捉えて離さない。

こんなことで、うまく大翔を誘うことができるんだろうか。

坂の下にコンビニが見えてきた。流れる汗をぬぐって、コンビニに入る。
真っ先に大翔の背中が目に入った。Tシャツにデニム。

あの広い背中が好きだった。

視線に気づいて、大翔が振り向く。

「あ」
まるで出会うことを予想していたかのように、ある意味ほっとしたような表情が浮かぶ。

「また会ったね」
「うん」
翠は笑顔で、そう返した。

お弁当コーナーの前で、再び二人並ぶ。

「今日は何食べようかな」
翠は極力明るい声を出した。緊張しているのを悟られないように気をつけて。

「いつもコンビニ?」
翠はさりげなく大翔に尋ねた。

「ああ、一人だとそうなるよな」
大翔は少し恥ずかしそうにそう答えた。

< 86 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop