ウソ夫婦
この間とほぼ同じ時間。翠は言われた通り、コンビニに向かっていた。
うまく誘えるんだろうか。そもそも疑うようなことをして、申し訳ないような気がする。大翔が内通者だなんてこと、それこそ信じられない。
相変わらずジェニファーの姿はない。指輪も外してしまった今、どうやって翠を監視しているのだろうか。
颯太の姿がないことが、想像以上に心細さをかきたてた。
今、颯太は大切な人と時間を過ごしている。
自分はこの世界がすべてなのに、あの人には自分自身の世界がある。
その事実が、翠の頭を捉えて離さない。
こんなことで、うまく大翔を誘うことができるんだろうか。
坂の下にコンビニが見えてきた。流れる汗をぬぐって、コンビニに入る。
真っ先に大翔の背中が目に入った。Tシャツにデニム。
あの広い背中が好きだった。
視線に気づいて、大翔が振り向く。
「あ」
まるで出会うことを予想していたかのように、ある意味ほっとしたような表情が浮かぶ。
「また会ったね」
「うん」
翠は笑顔で、そう返した。
お弁当コーナーの前で、再び二人並ぶ。
「今日は何食べようかな」
翠は極力明るい声を出した。緊張しているのを悟られないように気をつけて。
「いつもコンビニ?」
翠はさりげなく大翔に尋ねた。
「ああ、一人だとそうなるよな」
大翔は少し恥ずかしそうにそう答えた。