ウソ夫婦
「仕事は?」
翠はふと気になって尋ねた。
「俺、今在宅で働いてるんだ」
「……製薬会社の仕事で?」
二人の専攻は同じだった。
「いや、ウェブ制作」
大翔はそう答えて、恥ずかしそうに笑った。「俺も、勉強したことと関係ないことで、仕事してるな。君のこと、言えない」
「親の金でアメリカにまで勉強しに行って、それで全然違うことしてるんじゃ、親泣かせだ」
「……そうね」
翠は同意した。
翠の居場所は、親も知らない。それこそ本当の親泣かせだろう。
おにぎりとサンドイッチを買って、二人で炎天下に出た。
誘わなくちゃいけない。
『今度ごはんでもどう?』そうやって。
気軽な感じで。なんの裏もない感じで。
でも翠の口から、その言葉が出てこない。二人は二三歩歩き、それから翠は「……じゃあ」と小さい声を出し、大翔に背中を向けようとしたその時。
「なあ」
大翔が声をかけた。
「……何?」
翠は背の高い大翔を見上げた。
「今度、一緒に食事でもしないか」
翠は驚いて黙る。
「ああ、なんていうか、下心とか、そんなんじゃないから」
大翔が慌てたように、付け加えた。
「ただ懐かしくて。それだけ」
翠は「うん」とうなづいた。
「一緒にごはん食べよう」
そう言った。