ウソ夫婦
待ち合わせ場所は有楽町のマルイ前。帰宅する人々に紛れて、翠は大翔を待った。
東京は騒がしい。翠の通っていた大学は郊外にあったので、木々がたくさんあった。敷地内にはリスがいて、芝生に転がるとたまに気配を感じる。草の匂いが濃くて……隣を向くといつも大翔がいた。
「お待たせ」
気づくと目の前に大翔が立っていた。
「早く来すぎちゃって」
翠はそう言って、笑みを見せた。
「綺麗だな」
「お世辞ばっかり」
「お世辞じゃないよ。この間はメガネをかけて地味にしてたけど、一瞬でわかった。あの頃の君と、変わらない」
大翔はグレーのジャケットに、カーキのロールアップを履いている。背が高く足が長いので、ひときわ目立った。
「行こうか」
「うん」
二人は並んで歩き出した。
「予約してあるんだ。イタリアンでいい?」
「もちろん。私パスタ大好きだもん」
「そうだよな。覚えてる」
大学を卒業してから、二人はどんな風に暮らしてたんだろう。
翠は気になったが、それを口にだすことはできない。自分の記憶が抜け落ちていることの説明をしなくてはならないし、それに……ジェニファーが大翔に疑いの目を向ける結果となってしまう。
大通りから一本入った、静かな通り。二人は大学時代の話をしながら歩いた。
「あの教授、本当に厳しかったな」
「そうそう。どんなに頑張っても、Aがもらえなくて」
歩きながら、どんどん時間が巻き戻されていく。二人は自然と肩が触れ合うほどの距離になった。
「ここ。うまいんだって」
予約した店は、路地に面した小さなイタリアンレストランだった。