ウソ夫婦
大翔は頭をかいてから、頬を少し赤らめた。
「そう……おめでとう」
翠はなんとか状況を理解しようと、必死に頭を回転させた。
「君も、したんだろ?」
「え?」
「今日はしてないけど、この間結婚指輪をしてた。初めてコンビニで会ったとき」
見られてたんだ。
複雑だけど、ちょっとホッとしてる。
「今日もちゃんと、奥さんに全部正直に話してきた。ちょくちょく会ってしまうなら、ちゃんと事情を説明して、できれば笑顔で君と話したい。気まずい空気にはなりたくないから」
大翔が言った。
「うん……ありがとう」
翠は微笑んだ。
「だから、あのときのこと、後ろめたく思う必要はないよ」
大翔が言う。でも翠にはなんのことか、わからない。
あのときのことって、なんだろう。私、何かしたんだろうか。
「でも……」
「いいんだ。理性が効かないってこともある。僕たちはあそこで別れる運命だったんだよ」
翠にはチンプンカンプンだ。『理性が効かなくなる』ことって、何?
「君に振られたときは、正直怒ったけどね。今はもう、笑い話だよ」
大翔は頬に笑みを作った。
私が振った? 大翔を?
私のブランクに、何があったの?
私はいったい、どうしたっていうの?