ウソ夫婦

「君が言ってた『大切な人』と、結婚したのか?」

翠は驚きのあまり、声がでない。

大切な人?
誰?

目の前に、夢にでてきた薄い髪色の外国の男性がちらついた。

彼は実在の人?
私の……大切な人?

「ここ、冷房が効いてるね。寒いんじゃないか?」
何も答えない翠を気遣って、大翔が心配そうな眼差しを向けた。

「……ちょっと、寒いかも」
つい口に出して、それからハッとした。『寒い』は危険があるときの合言葉。

「あ、でも別に、寒くないかな」
慌てて取り繕う。

もっと大翔から話を聞きたい。あのとき、私は何をしゃべった? 誰を大切な人って言ってたの?

チリンチリン。

扉が開く音。

「いらっしゃいませ。一名様ですか?」
ウェイターが声をかけると「いや、妻を迎えにきただけですので」と声がした。

翠ははっとして振り向く。

颯太がこちらへまっすぐ歩いてくるところだった。

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