ウソ夫婦

暗い路地を折れると、いつもの軽自動車がいる。翠と颯太の姿を認めると、ジェニファーが運転席から降りてきた。

「ミドリ、お疲れ様」
ジェニファーが、車の屋根に腕を置いて笑いかける。

「うん」
翠はうなずきながらも、先ほどの話で混乱している。

「とりあえず、シバタヒロトはリストから外してもいいかも」
ジェニファーが言う。「偶然って、あるのかもね」

「ソウタも、慌ててこっちに帰って来なくたって、良かったのに。シバタに会うって言ったら、血相かえて帰国して」
ジェニファーが首をすくめた。

「ふざけるな」
隣から低い声が聞こえた。

空気が突然冷える。ジェニファーの顔から笑みがすうっと消えた。

「こいつに、こんな危険なことをさせて、何が大丈夫だ」
颯太が言葉に怒りを込める。その静かで、それでいて激しい感情は、隣に立つ翠をも凍らせた。

「ベストな方法だった。結果、シバタをリストから外せたし、ミドリは無事だった」
ジェニファーも冷たく言い放つ。

「翠を巻き込む可能性も十分あった」
「確かに。でもこれが、私たちの仕事だわ。犯人を見つけ、逮捕する。あなたは、違うの?」

颯太が黙る。

ジェニファーがボンネットを回って、歩み寄ってきた。

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