ウソ夫婦
「これは仕事よ、ソウタ。プライベートと仕事を分けられないなら、降りた方がいい」
ジェニファーが言う。「いくら、彼女があなたの……」
バンッ。
ボンネットが颯太の拳で激しく揺れる。
「Shut up right now!(黙れ!)」
颯太が低い声で怒鳴った。
「After more something said, I don't know what's doing to you.(それ以上何か言ったら、俺は何するかわからないぞ)」
颯太とジェニファーがしばらくにらみ合う。翠はどうしたらいいのかわからず、おろおろとするばかり。今までも怒ったり、横柄な態度をとったりしたことはあったけど、これほど激情にかられている颯太を見るのは初めてだ。
「OK」
ジェニファーが両手をあげた。
「いいわ、好きにしなさい。ただし……」
ジェニファーが言う。「破綻しないようにしなさい。あまりにも危ないわ」
それから車のキーを颯太に投げた。
「ソウタが帰ってきたのなら、私の仕事は終わりね。帰るわ」
ジェニファーが翠に視線を向ける。
「バイ、ミドリ。ちょっと羨ましい」
「え?」
翠は『羨ましい』を理解できず、首をかしげる。ジェニファーはそれを笑いながら見ると、手を振った。
それから、夜の街へと颯爽と消えていった。