ウソ夫婦
翠はとっさに瞳を閉じた。
扉が開き、ゆっくりと閉まる気配。冷房の冷たい空気が、柔らかな波になって部屋の中へと流れ込んだ。
何? なんなの?
翠は身動きできない。
寝たふりなんてしないで、起きて『何?』って聞けばいいのに。私って、本当にバカ。
颯太がベッドに近づいて、しばらく翠を見下ろす。その視線に緊張して、手のひらに汗がにじむ。
颯太はベッドに腰を下ろした。
ギシッとスプリングが軋んで、翠の左半分が沈み込む。翠は必死に寝たふりを続けた。
颯太の手が、タオルケットを掴んだままの翠の手を取った。何か布ずれのような音がして、それから薬指にそっと指輪が戻された。
ああ、なるほど。発信機をつけたってことね。納得納得……。
指輪をつけたら部屋を出ると思ったのに、颯太は以前としてベッドの上に座ったままだ。
早くっ。どいて、そこ。何やってるの?
翠は緊張で頭が痛くなってきた。肩が張ってガチガチになる。
突然、颯太の手が翠の額に触れた。
翠は心の中で「なにごと?」と声をあげる。
颯太は、前髪を優しくかきあげた。
「本当に、勘弁してくれ……」
深いため息とともに呟いた。「You need cares if how much worry about you... don't do anything risky(どれだけ心配させたら気がすむんだ……危ないことはもうするな)」