死にたがりヒーロー
#世界
見られてはいけないと、今は話せないと、思っていた。
だから、帰ってきても「ただいま」は、伊都の部屋まで届かないように小さな声で済ましたし、おばさんに「伊都はまだ部屋で寝ている」という確認をとってから二階に上がった。
それも、足音ひとつたてずに。
それなのに。
「ーーこっち向けって言ってるだろ、古都」
なんで起きてるの、バカ伊都。
寝てたんじゃないの?
熱だってまだ下がっていないくせに。
「……部屋戻るから、離して」
「無理、こっち向いたらな」
「女の子を無理やり部屋に連れ込むとかサイテー、ヘンタイだ」
「無理やりじゃない」
「……どのあたりが無理やりじゃなかったのか説明してほしいよ」
部屋に戻るには、なにがなんでも伊都の部屋の前を通らなくちゃいけない私。
音をたてないようにそうっとそうっと脚を進めて、息をひそめて。
でも、そこを通り過ぎた瞬間、油断してしまった。
バンッと後ろで勢いよくドアが開いたと思うと、振り返る間もなく手首を引かれて……
そして、今現在この状況にいたる。