死にたがりヒーロー
無理やりじゃないなんてよく言えたものだ。
どこからどう見たってこれは、完璧に無理やり。 これを無理やりと言わなければ、いったい何と言うんだ。
「なんでもいいから、こっち向け」
「ひゃっ……」
伊都の手が私の顎にのびてきて、そのまま顔を持ち上げた。
交わった視線。そして、少しの沈黙のあと……。
「古都にそんな顔させたの、誰」
伊都の静かな声が、響いた。
私はそっと顔を逸らす。
「伊都のせいで、びっくりした。 こわかった」
「うん」
「伊都のせいだよ」
「うん」
「伊都の、せい……っ」
「古都にそんな顔させたのは、俺?」
「……っ」
そうだよ、伊都がこんなことしたせいだ。 それ以外のなんでもない。
びっくりしたから。こわかったから。
ただ、それだけ。
強張った頬も、気を抜くと下がっちゃう眉も、小さく震えるくちびるも、目から落っこちちゃいそうなこの雫も……全部、全部。
「……伊都のせいなわけ、ないっ……」