目には目を、歯には歯を
突然、それは襲ってきた。

突き飛ばされる。
尻餅をつくと、ついた肘をすりむいた。

――痛いっ!

ジャックは、その痛みにやはり驚愕する。

昨晩の痛みは幻覚ではなかったと、想い出された。

そして、それ以上に、ものすごい恐怖と混乱が、キャサリンを襲っている。

ジャックには、時にキャサリンの混乱した思考についていけなくなった。

――なに? 何が起こってるの?

何であたしがこんな目にあうの?

この男、あんなに親切そうに、いい笑顔であたしの事、介抱してくれてたじゃない?

なんでいきなりこんなひどい事するの?

キャサリンは、ジャックの顔を見つめたまま、口をぱくぱくする。

声が、恐怖のあまりに出ないのだ。

それは、ジャックが知らない類の恐怖だった。

いつでも強い自分。

人に恐怖を与えることはあっても、与えられることはない。

しかも、女が感じる恐怖とは、男が感じる恐怖と、根本的に違うのだ。

ジャックは、その違う種類の恐怖が耐え難かった。

声を出そうとしても、恐怖のあまり出ない。

それが、こんなに恐ろしいものだったとは…………!


< 57 / 77 >

この作品をシェア

pagetop